もの補助PJ報告―令和2年度(令和元年度補正予算)ものづくり補助金の動向

2020年11月16日
補助金PJで交換された情報に基づいて、ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(『もの補助』)の最近の動向について報告します。
1.今年度(令和元年度補正)募集の特長
今年度の『もの補助』の募集には従来とは異なる2つの特長があります。 一つ目の特長は一般型に新たに新型コロナ特別枠が設けられたことです。通常枠の補助率は1/2または2/3(小規模事業者)ですが、特別枠は通常枠とは別に補助率が引き上げられます。さらに、業種別のガイドラインに基づいた感染拡大予防の取組を行う場合は、定額補助・上限50万円を別枠(事業再開枠)で上乗せされます。 特別枠にはA類型(サプライチェーン毀損への対応)とB類型(非対面型ビジネスへの転換)、C類型(テレワーク環境の整備)の3類型があり、補助率はA類型2/3、B、C類型3/4です。 二つ目の大きな特長は通年募集になったことです。これまでに3回の募集が行われ、現在は4次募集(締切は12月18日)中です。さらに来年2月を締切りとする第5次募集が予定されています。 以下一般型について報告します。
2.採択率にみる『特別枠』の有利さ
通常枠と特別枠の採択率について大きな差異が生じています。平成30年度(平成29年度補正予算)以降の採択率をまとめると表1のとおりです。 平成30年度と令和元年度の採択率にはいずれも1次と2次との間に大きな差異がありますが、平成30年度が1次と2次とを合せて50.7%、令和元年度が同じく45.0%でした。今年度の1次から3次まで合わせた採択率は49.1%ですのでこれまでと大きな差異はありません。 ところが今年度の採択率を、通常枠と特別枠とで比較すると大きな差異があることが分かります。表中の提出時枠とは、事業者が申請した際の枠のままでカウントした値です。採択時枠とは、特別枠では不採択となり、通常枠で再審査されて採択された件数をカウントした値です。3次募集についてみると、特別枠で応募した件数は4,560件ですが、特別枠において不採択となって通常枠で再審査された案件が多数あることが分かります。 提出時枠で見ると、2次募集の通常枠の採択率が41.9%であるのに対して、特別枠の採択率は68.1%です。特別枠のほうが26.2%も有利であることが分かります。3次募集では、通常枠の採択率が20.7%であるのに対して、特別枠の採択率は47.1%です。特別枠のほうが26.4%も有利です。 募集要綱には『「特別枠」を新たに設け、優先的に支援します。』と記載されていますので、特別枠申請案件には通常枠に比べて加点等有利な扱いがなされていると推察されます。
表1.平成30年度から令和2年度の募集ごとの採択率 (平成30年度、令和元年度)
応募件数 採択件数 採択率(%)
平成30年度 (平成29年度補正) 1次 17,275 9,518 55.1
2次 6,355 2,471 38.9
令和元年度 (平成30年度補正) 1次(早期審査) 1,111 332 29.9
1次 14,927 7,468 50.0
2次 5,876 2,063 35.1
(令和2年度(令和元年度補正))
募集 申請者数 提出時枠 採択時枠
採択者数 採択率 採択者数 採択率
1次 2,287 1,429 62.5
2次 一般 2,400 1,006 41.9 1,494 62.3
コロナ特別 3,321 2,261 68.1 1,773 53.4
5,721 3,267 57.1 3,267 57.1
3次 一般 2,363 489 20.7 1,561 66.1
コロナ特別 4,560 2,148 47.1 1,076 23.6
6,923 2,637 38.1 2,637 38.1

3.加点項目における『特別枠』の優遇
技術面と事業化面のおのおの4項目の審査項目は従来と変わっていません。 政策面では①地域経済への波及効果、②ニッチトップとなる可能性、③環境への配慮の3点に、特別枠のみ④新型コロナウイルスが事業環境に与える影響を乗り越えてV字回復を達成するために有効な投資内容となっているか、が加えられています。これが上記採択率に影響を与えていると推察されます。 また、加点要素の災害加点の、新型コロナ感染症対策[特別枠の申請者]について、『※特別枠で不採択となり、通常枠で再審査される場合に加点されます。』の注記があります。特別枠申請者が有利に扱われることが明記されているのです。
4.採択される産業の傾向
平成24年度補正予算に『試作開発等補助金』から始まったこの補助金は、平成25年補正予算では『ものづくり・商業・サービス革新事業補助金』として、商業・サービスも対象とされました。しかし平成26年度補正予算の採択においては「生産プロセス関連」が44.1%、「製品開発関連」が47.9%を占め、合わせて92%が製造業関連でした。 今年の1次募集~第3次募集では製造業関連は60%を占め、商業・サービス分野の採択数が急増しています。
表3. 産業分類別採択数割合
産業分類 申請者数割合(%) 採択率 (%) 採択数割合(%)
製造業 55.1 52.9 60
商業・サービス 建設業 6.1 48.2 6
情報通信業 6.0 41.7 5
卸し・小売業 6.2 39.1 5
学術研究・専門技術サービス業 5.6 52.1 6
医療福祉業 7.9 52.2 8
サービス業 4.5 42.1 4
その他 8.5 36.9 6
合  計 100 49.1 100
注:「ものづくり補助金総合サイト」の『データポータル』のデータから多摩ラボ作成